哲学者はそれらが俯瞰できない対象だからこそ思索する。それゆえ、思索に費やしたプロセスの全体しか〝答え〟にならない。一冊の本を読み終わった時点で、その展開をモデル化して図示することは不可能ではないかもしれないが、モデル化はすでに俯瞰なのだから、俯瞰できない対象を俯瞰せずに思索したプロセスの全体をわかるはずがない。
保坂和志『書きあぐねている人のための小説入門』